我が家は夫婦で千葉市美浜区の自宅から緑区の資材倉庫まで出社、事務パートを務める妻は16時のバスで帰ります。
当社には妻が母の補助者として先に入社し、その後私が入社したのは下の子供の小学校入学直後。当初はバスの便が合わず妻が車で先に帰り、私は19時半の最終バス、これに間に合わなければ最終帰宅者の自家用車に同乗して最寄の駅またはバス停まで送ってもらっていました。その後減便に伴う時刻変更により妻が14時のバスで子供の下校前に帰れるようになり、私が車で帰宅するようになりました。
これについて、自動車を生活必需品と考える母は、バスで帰宅する妻を不憫、または単に私の道楽に付き合わされる被害者として見ているようで、車を2台持つように強く諭されています。しかしながら、妻は運転が苦手でバス帰宅を希望。私も自家用車はエネルギー面で環境にやさしいとは思えず、いわんやローカルバスはいつ廃止になってもおかしくない状態であり、「乗って残そう」とばかりに微力ならが利用促進を行ってきました。
そんな中、6月6日についにその時がきました。いつものように終点の駅でバス下りる妻は、馴染みの運転手さんから「廃止が決まった」と告げられました。
今回廃止となる千葉中央バス「平山線」は、千葉市緑区のJR鎌取駅から県道66号線を北上し若葉区の熊野神社に至るローカルバスで、平日日中は高根町整形外科まで延長されます。現在は1日8往復、途中の平山十字路から水砂まで往復しますが、この沿線に当社資材倉庫があります。以前は「熊野神社行」「水砂行」は独立した系統であり、私が子どもの頃は1時間に1本以上は千葉駅まで直行していました。
思い起こせば、実家(本社)が郊外の大宮台に引っ越したばかりの小1の春休み、母に連れられて妹と3人で1日がかりの当てのない「遠足」に出たことがありました。途中、千葉駅行きのバス停「熊野神社」を見つけた母が「バスの行き先表示を見てどこなんだろうと不思議に思ったていたけど、こんななの!?」と驚いていた記憶があります。その後水砂バス停付近で「疲れてバスに乗るよりジュースで元気になろうね」と自販機で飲み物を買い、さらに1時間程歩いて帰宅しました。10年後近所に当社を構えることになるのですが、遠足について母は全く記憶がないそうです。
なお、両系統が分岐する平山十字路付近は同じ中学学区でもあり、中1の5月には担任教諭に連れられてクラス有志でイチゴ農家を訪ね、いちご狩りのシーズン終了に後片付けを手伝ったこともありました。報酬はもちろんイチゴ食べ放題! 40年後の今は当社電気工事のお得意さんです。
そんな思い出をかみしめながらも、バス廃止まで早あと1か月。午後からの都内会合に向けて10時半のバスに乗りながら帰宅時の代替交通手段を考えていると、高齢の女性陣がバス廃止を知り、運転手さんに掛け合っていました。自家用車で移動する「自動車文化圏」においても、日常の足としてバスを必要とする方々は確実に存在します。運転手さんは当然ながら路線廃止についてコメントできる立場になく、「地元の自治会が市役所に直接掛け合った方が効果的と思う」と答えるのが精一杯のようでした。
父も、運転がおぼつかなくなり車を取り上げられてた当初は散々悪態を付き、車を買おうと一人で自動車店に行ったこともありました。しかしながら、やがてバスを使いこなすようになり、移動の自由を取り戻すことで、晩年は穏やかに過ごしていました。やはり移動の自由は人間の根源的欲求のようです。私自身も、学生から20代を東急沿線に住み、やがて京葉線で通勤する「千葉都民」となり、そして今は同じ千葉市内でありながら電車文化圏(美浜区)と自動車文化圏(緑区)をまたいで生活している身として、これを実感しています。自動車への全面依存は、それが運転できなくなった時に身動きが取れなくなります。選択肢の多様性は「豊かさ」そのものであり、これを守るためのコストは惜しんではなりません。以前廃止の噂が流れた時に「当社としてバス停留所の案内放送広告を出稿しようか」と話していましたが、実行に移さないまま後の祭りになってしまいました。
さて、今回の路線バス廃止で外房線&県道20号(大網街道)と国道126号線(東金街道)の間が完全に交通空白地帯となります。丁度今年3月に千葉市役所から「地域公共交通計画」が公表されたところですが、ここから今回の廃止を読み取ることはできません。この計画では、この空白地帯を「区分D」として移動手段を確保する一方、本バス路線沿線は「区分C(低頻度バス路線沿線)とされ、利用促進を図ることで『廃止を避けるべき』とされています。
千葉市ではバス路線は交通政策課が所管していますが、以前都市計画審議会委員を務めた伝で、話を聞くことができました。コロナ禍もあり直近の利用実績を鑑みて、コミュニティバスを含む路線バスの運行継続は無理のようです。であれば、地元民として豊かさ=移動手段の選択肢維持にむけて何かできないか。折しも千葉市新規事業開発支援事業に採択されたものの、丁度バス路線廃止の発表がグリーンスローモビリティの公募期間中でしたが、これに応募する提案を考える時間はありません。しかしながら、そもそも自分が学んだ社会工学はこんな課題解決のためにあるのではないか! そう自分を奮い立たせています。
路線は廃止まであと2週間。全国の路線バス&廃線マニアの皆さん、是非当地まで足をお運びください。森の中のバス旅は涼しいですよ。