前回からの続き
鎌取コミュニティセンターでの全社会議は、午後も続きます。中小企業診断士として企業研修を行う場合、午後は演習など参加者のワークを増やす場合が多いです。午前中にインプットした講義内容の定着を図る他、眠気や飽きを防止する目的もあります。特に当社工事担当者にとっては、これまで集合研修での1日座学はあるものの「全日会議のみ」は初めての経験です。昼食の唐揚げ弁当がもたらす睡魔との闘いが始まります。そこで、午後は各部門長にコーナーを仕切ってもらうことにしました。
私の事業承継前、当社は親方たる父を筆頭として「職人1~n号」が在籍する完全年功序列制でした。一社下請ゆえ工事仕様も元請からの指示に基づくことから当社内でのキャリアが重視され、年下でも先輩の指示に従います。各人はそれぞれ前職での経験を持ち転職してきていますが、それさえも「余計な癖」として扱われる風潮が見受けられました。
そこに後から入った私は門外漢。学生時代バイトの経験があるつもりですが、個人的な思い出は現場の役に立たちません。むしろ「不器用な素人は足手まとい」「社長が同じ現場にいるとやりづらい」と二重の意味で敬遠されます。一方、母からは「現場の苦労を現場で分かち合いなさい」「現場で作業を手伝いなさい」といった「40歳の授業参観」が続いていました。
それからの奮闘は本ブログに書き連ねてきたとおりですが、中でも3年前の職制制度導入は人事面の大改革でした。従前の「自分の腕で稼ぐ」職長とは別に、施工分野や管理業務を担当する「部門長」を新たに設定し、権限と責任を担うことを提案しました。同時に賃金テーブルを設定し、昇給ピッチも差別化しました。当時、平均勤続年数が20年を超える一方で下請作業単価は下落を続け、経営指標的にも労働分配率の上限を超えていました。これに対し「自分の腕を存分に振るいたい」「新しいことに取り組みたい」と、4名が名乗りを上げてくれました。
午後の進行は、次の通り担当パートを分けました。
トップバッターは取締役の皆川さんです。テーマは、当社の外部環境のうち、特に出席者全員に関係する「働き方改革」としての労働時間規制についてです。職人は「売れっ子は呼ばれてナンボ」とばかりに、芸能人さながらに休みを怖がります。特に当社のような下請の事業形態は個人事業主(一人親方)が多く、労働時間も自己裁量の範囲内です。一方、当社のような企業勤務者は当然労働基準法の保護の下にいますが、現場ではこれが会社からの不公平な作業制限に映ることもあります。
以前、職場意識改善助成金の受給時に本件に関し労使協議会を開催したところ「職人をサラリーマン扱いするのか」と不満を言われたこともありました。このような現状は国も無視できなかったようで、当社を含む建設業は、運輸業などとともに2024年3月までという長い猶予期間が設けられています。
しかしながら、建設業への上限時間適用開始まで2年を切りました。元より、この業界風土が世間から3K職場と呼ばれ就職先として敬遠されることは明らかですが、中にいる限りは中々気づけません。皆川さんは取締役として採用面接も担当する立場から、この現状に対し警鐘を鳴らしました。
次は、尾谷さんによる大規模現場報告会の完了報告です。これまで中心だった工事は既設建物を対象として施主様の在室中に短期間、少人数で完結するものが多く、施工能力に加え身だしなみやマナーも含め個人の力量に大きく依存するものでした。その点、尾谷さんは16歳で当社に入社、本社(実家)に住込みで修行を始めて32年のキャリアを誇る大ベテランです。その施工能力は特に端末設置作業でいかんなく発揮され、4人前と言われています(宮下談)。
ところが、近年尾谷さんは大規模新築現場を担当することが多く、管理者としての役割も求められています。グランベリーパーク改築時には元請に出向して施工管理および工事発注業務も経験してきましたが、プレイングマネージャーとしては勝手が違うことでしょう。加えて、新築現場では元請ゼネコンによる朝礼への出席が必須で、早朝出社が続くこととなります。これまでの感覚で新築現場に入ると、時間外労働は月100時間を超えてしまいます。ここで、現場での労務管理という新たな業務が発生しますが、そこは職人。ついつい自分がキリの良いところまで続けがちですが、これでは周りが持ちません。
当社業務執行体制改革の一環として、大規模現場では「統括職長」を指名し、計画策定を命じるとともに完了時の採算に応じて現場ボーナスを付することとしました。そして本現場を第一号とする予定でしたが、尾谷さん曰く「そこまでの規模ではない」とのことで適用を見送りました。しかしながら、実際には入工が大幅に遅れる一方で工程調整が折り合わず完了日は延期なしという非常にタイトなスケジュールとなりました。尾谷さんは「いざとなったら自分で何とか」と考えていましたが、結局応援の逐次投入となりました。当社の「下請弱電屋」という立ち位置は、新築現場においては竣工検査直前の最終工程になるため、常に非常事態です。今回はそれが想定以上で、そのしわ寄せでムリ、ムダ、ムラが生じることとなりました。
これを次回以降の教訓とするため、今回は本現場の振り返りを宮下とのパネルディスカッション形式で行いました。
建設業改革の一環で多重下請排除が叫ばれていますが、今回の当社のように正社員技能労働者の過重労働を招くようでは本末転倒でしょう。見積段階からリスクを適切に見積り、受注金額を算定する。最悪のシナリオを準備し、予め社内で共有する。上手くいったら会社に対し対価を請求する。当社が「腕の立つ職人集団」から脱皮するための第一歩となればと思います。
休憩をはさんで、さっそく2号案件の発表です。千葉公園ドーム(TIPSTARDOME)
で表彰を受けた吉田さんが、大規模新築現場で電気(強電)工事を請け負います。吉田さん自身は東京都江戸川区で新築工事をすべて一人で完遂した実績がありますが、今回は2,000㎡クラス店舗の1フロアで配線ラック施工など工種も多く、さらに後工程となる弱電の一部についても別途当社が受注したため、本現場において当社全体の統括も行います。まずは新たな工種に対する安全管理と品質管理が最優先課題とのことで、加えて新築現場の「作法」を学ぶ新人教育も行います。電気工事部「吉田組」の結成です!
つづいて、松本さんが2パートを担当します。まずは総務マネージャーとして就業規則改正の説明です。社内報全79号に散在する社内通達を拾い出すとともに、「住込み単身赴任現場修行兼任」として本社(実家)で母の脳内にある非明文化ルールの口伝を受け、さらに足りない部分については社会通念に基づき補い、これらを就業規則にまとめてもらいました。前職社長秘書だった同僚として面目躍如ですが、改めて文章にすると私も随分なムチャ振りをしたものです。
続いて、平泉電気社長として業務報告。会社の譲渡契約当日に法人登記や建設業許可変更届を出してから、基本的に神奈川県内での社長業務が続いています。久しぶりに顔を合わせるメンバーも多く、経営そのものに加え、同社の工事内容や協力会社との関係についても関心が寄せられました。
そして最後に宮下総括、というところで時間切れ。各担当パートで予想以上に盛り上がり、蛇足は不要だったようです。予定した内容は、順次皆さんに伝えていきましょう。