今春、幻の大学新卒入社員についてご報告しましたが、これには続きがあります。

「大学生から当社入社希望あり! しかも体育大学生!!」と喜び勇んで社内報告したところ、周りは意外と冷静でした。
「うちがどんな仕事か、分かっているのかな?」
と私と同年代のベテラン社員から懸念を示されました。確かに、現在の当社メンバーは押しなべて勤続10年以上ですが、仕事や生活パターンが合わずに数ヶ月で辞める方もいるので、過度の期待は禁物です。 
「職人を育てるなら、高卒じゃないの?」
と工業高校電気科出身者からも指摘されました。そういえば、当社工事担当者に大卒は、過去には何名かいたようですが、現在はいません。大学まで水球一筋の人生を続けた挙げ句の職人修行を親御さんが許すのか、気になるところではあります(結果、懸念は的中しました)。

 という社内の声を受けて、改めて高校新卒採用について考えてみましたが、皆目見当がつきません。そこで、「困った時の水球頼み」とばかりに、千葉県国際総合水泳場で行われる千葉県高校総体に久しぶりに顔を出し、各校顧問の先生方に相談しました。すると、私の現役時代当時の木更津高校監督の赤澤先生が、現在は千葉工業高校で教鞭をとられているとのこと。千葉工業高校といえば、千葉県内3番目の水球チーム結成校ですが、私の高校時代には既にチームはなく、訪れたこともありません。

 そこで、「お久しぶりです、県千葉OBでレフェリーの宮下です!」とアポを取り、お邪魔しました。赤澤先生は筑波大学水球部出身、私の審判員時代は主に県立船橋高校監督として「インターハイまであと1点」まで迫った水球の名指導者で、私とは「監督と審判」という独特の緊張感がある関係でした。その後は水球部がない高校への赴任が続き、長くソフトボール部の顧問をされているそうです。また、現在は保健体育教諭として性教育もご担当されているとのことで、近く全国大会での発表を控えているとのことでした。
そんな昔話に花が咲いた後、進路指導の先生をご紹介いただき、「未成年の将来に関わる」高校新卒募集の心構えとルールを教えていただきました。

求人票番号 続きは欄外

求人票一覧 続きは欄外


 進路指導室を出ると、部屋の前には、求人リストが張り出されていました。通し番号は振られており、その数約2,000。我が母校ではそのような光景を見たことがなく、進路に対する意識の違いを思い知らされます。また、その中には、私の出身である「東京急行電鉄株式会社」もあり、その他にも東証一部上場の大企業が並んでいます。そもそも同高校の3年生は約260名。その中で就職希望者は例年180名程度で、有効求人倍率は公式発表で約12倍。その中で「有限会社綜合電設」という1行があっても、これに興味を持つ高校生がいるとは思えません。
そんな中、求人票を眺めている高校生がいたので声を掛けてみました。

「兄ちゃん、どこかいいところあった?」

「地元の電気工事屋を探しているんですけど、中々ないんですよ」

「え!? うち、地元の電気工事屋!」

 そんなやり取りが縁で、この4月に無事入社。当社21年ぶりの10代社員誕生です!(インタビューはこちら

 さて、内定通知を出して今更ながら気づきましたが、新卒社員を受け入れるということは、社会人の第一歩を当社で踏み出すことでもあります。そのために必要な新人教育についても、一から考える必要があります。

 私が新卒で入社した(旧)東京急行電鉄株式会社(※)を振り返ってみると、大卒総合職は1年間新入社員専用寮で合宿生活を送ります。そして、毎週木曜日の夕方に社内講師を招聘し、業務ガイダンスを受けながら自分の希望配属先についてイメージを固めます。
と同時に1年数ヶ月の現業研修が待っています。私の時は全員3か月駅員研修を行った後、①車掌、②運転士、③駅ナカのミスドorケンタッキー、④ガソリンスタンド、⑤ホテルマン、⑥ケーブルテレビの営業、⑦クレジットカードの店頭募集、のうち2か所を半年ずつ回りました。これは事業改廃による研修先変更はあるものの、現在も続いているようで、近年は百貨店の販売員もやるそうです。圧巻なのは電車運転士で、人事辞令を受けて社内の動力車操縦者養成所に入所し1年近くかけて運転免許を取得しますが、研修終了後にこの免許を活かす機会は全くありません。ちなみに、私は「夏からクリスマスまでケンタッキー、冬はガソリンスタンド洗車三昧」という季節感満載の擬似フリーターコースでした。学生時代のアルバイトは専ら当社の現場施工だった私にとって鮮烈でしたが、クリスマス3日間の50時間勤務も良い経験でした。

 と昔を思い出しながらも、当社でこれと同じことを行うことはできません。人件費を含めた研修費用を考えるだけでも、今の立場では目がくらみます。
それでは、と昔気質に「職人は背中を見て腕を盗め」が通じる時代でもありません。当社のような小規模企業が新入社員を迎える際に役立つ教育メニューのモデルケースを国が何かしら用意していないものか。ここは「困った時の補助金頼み」とばかり、労働局の助成金メニューを探したところ、「人材開発支援助成金(特定訓練コース)」を見つけました。

大臣認定新人教育プログラム

大臣認定新人教育プログラム


 早速労働局窓口を訪ねて話を伺ったところ、本助成金は、国が策定、提示するジョブキャリアと、OJTとOff-JTをそれぞれ20~80%のバランスで組み合わせた6か月~2年間の「実践型人材育成システム」を策定し、厚生労働大臣の認定を受けることで、実行後に助成金が支給されるとのことでした。大臣認定の申請は2か月前締切とのことで、1月中に申請が必要です。そこで、新年に実施したLAN研修後からカリキュラムを作成。私が着任後5年間で実施した全員研修をベースに、資格受験対策、技能講習、ビジネスマナーなどのOff-JTと、これを現場で活かすべくOJTを組み合わせた合計900時間、1年間のプログラムを組み上げました。

そして、いざ4月入社。となったとたんにコロナ禍が本格化。4月2日、3日実施の新社会人研修は途中で中断となり、以後は緊急事態宣言発令もあり2か月間すべての研修が中止、延期となりました。一方、工事現場は幸いにもほぼ平常通りでした。特に、交番監視カメラなど研修向きの公共工事もあることから、着実に現場ノウハウを学べているようです。また、自粛要請期間も終わり、研修振替の連絡も各機関から入ってきています。一度現場を見てから座学を受けると、見える景色も違うことでしょう。

 いつか当社を卒業するときに「入社してよかった」と思ってもらえるような環境を作りたい。新卒社員を初めて採用し、これが経営者としての自分の使命であることを実感しています。

※現在総合職についてはグループ統括会社の東急株式会社が一括採用。鉄道現業職の採用は東京急行電鉄株式会社で実施のようです。