当社に入り、早6年が経過しました。4社目ですが、過去はいずれも5年~7年で「卒業」しています。家業でも同じ期間を経過したと思うと、感無量です。

 会社勤めでは、当然ながら配属された部署で割り当てられた業務を担当することになりますが、そこには必ず評価が付いて回ります。そしてその評価方法については、全ての給与所得者は思うところがあるのではないでしょうか?
 人事制度は、中小企業診断士二次試験でも事例1問目で出題されるように普遍的な問題であり、各社とも頭を悩ませるところです。私が以前所属した3社でも評価制度の見直しは度々行われ、中には3年連続で「人事制度改革」が行われたこともありました。各社とも相応の金額を投資して人事コンサルティング会社に支援を仰いでいましたが、最終的には「目標管理制度」の導入に落ち着きます。評価される側としては半年ごとの面倒な作業が増えるのみならず、評価する上長からも面倒くささが垣間見え、誰のためにもなっていないように感じました。その上、自己評価と上司のフィードバックがかみ合わない場合などは、人事制度改革自体がモラール低下を招くなど逆効果にもなるでしょう。

 さて、翻って当社ではどうするか、すでに父が意思決定できない状態で入社した私が最も頭を悩ませたことは、賞与と昇給についてでした。当社は創業以来「親方と兄弟弟子」の年功序列制。実際に父と現場を共にした経験を持つ工事担当者は今や数少なくなりましたが、それでも親方の一存で給料が決められることに異を唱えることはなかったようです。母が切盛りしていた間もこれを踏襲していましたが、外部環境が変わらない一社下請の職人集団としては、それなりに合理的なシステムでした。
 私が幼いころ、創業当時の父は酔うと「職人の人生を預かるつらさ」を私に説教しました。また、実家近所の事業主未亡人からも家業承継時に同じことを言われました。しかしながら、私としてはこれに同意することはできません。会社に勤めることは、その会社に人生を預けることなのでしょうか?
 そんな疑問を抱えていた一昨年末、高校水球部の大先輩である第一勧業信用組合新田理事長のweb記事を見かけました。就任後に行った人事改革の一例として、評価項目に「地元祭りへの参加」を設定するなど地域密着を意識させることで、業績もV字回復したとのこと。

 記事は人事評価クラウドサービス「あしたのチーム」についてでした。クラウドサービスは私の前職商品であり、これを中小企業向け人事サービスに活用したことも新鮮でした。さらに、「IT導入補助金」の対象とのことで、初年度は半額で利用できることも魅力でした。
 とはいえ、クラウドサービスは導入よりも運用にエネルギーが必要なことは、前職までで骨身に沁みています。自分が業務に精通していれば調整できますが、人事制度構築は初の経験。そこで、あしたのチーム社に導入支援も依頼することとしました。改めて、自分がなぜ事業を承継したのか。ここで何をしたいのか。そのために従業員には何をしてほしいのか。父が亡くなるまでは半ば自虐的に「介護離職」を気取っていましたが、いよいよ自分の人生に向き合うこととなり、会社を組織化する決断を下しました。まず、従業員の志向に応じて①従来通り現場で力を奮う「職長」、②会社全体考え、担当分野において営業、原価管理、技術など全責任を負う「部門長」に分けました。これとは別に「シニア」「見習い」も設定し、それぞれに求めるものを明示したうえで四半期ごとに目標を立てこれに向かっていくこととしました。
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 なお、この人事制度構築支援に対しても「人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)」がありました。導入した制度に基づく昇給の実行で1年後に、さらに生産性が向上すると3年後に助成金を得られます。人事制度構築のような管理費の原資捻出は可能限り自分で行い、本業の稼ぎは可能な限り給与に還元しないと、本末転倒な管理倒れになってしまいます。
 このような準備を経て、昨年4月に「あしたのチーム」担当氏による説明会を実施後、新年度6月から本稼働させました。全員初めての経験で、コメントも「まあまあ」だけなど前途多難ですが、全員と一対一で面談し、忌憚ない意見を得る機会ができました。

balance そして今月、四半期ごとに評価を行い、4回の成績を集計して給与改定を行いました。中には、この制度の趣旨を深く理解し、普及に尽力してくれる人間も現れました。働き方改革下での脱一社下請の顧客リストラクチャリングのかじ取りを行い、現場と経営の両方を見据えた統括者の役目を果たしたことから、新年度から管理監督者としてさらに一歩進んでもらうこととしました。なお、建設業法では経営管理者の要件として取締役就任年数が求められますが、一人取締役だった父が病に倒れて先行き不安になったときの教訓として、工事担当者の取締役就任が必要と感じていたことから、本日の株主総会(=家族会議)で取締役就任を要請し、受諾されました。

 創業から47年、父が決して行わなかった組織化の第一歩を踏み出しました。おかげさまで各工事担当者は新たなお客様からも腕、人柄とも高評価をいただき、新鮮な気持ちでやりがいを見出だしています。今後仲間を増えた時にスムーズに回るように内側からフォローする決意を新たにしながら、助成金の支給申請書類を取りまとめています。