当社が公共入札資格を取得したのは、私が家業を承継した後の7年前。一社下請の零細工事業者がこの境遇から脱するにはまずどこを目指し、頼るか?と考えた際に思い浮かんだのが、中小企業診断士試験の旧制度2次試験科目「中小企業対策」で学んだ官公需による小規模企業支援でした。この科目は、中小企業支援に関する法律や制度などについて各1行の問題文が与えられ、80分間で600字1問、200字2問を回答します。特に200字問題は知識問題でもあり、限られた時間で考えをまとめる時間もないため丸暗記が必須で、資格学校では「合格には暗記200問が合格ライン」などと煽られていました。毎年試験前には暗記本が発売され、受験直前期には書店のビジネス本ベストセラーランキングに名を連ねていました。私が初職の鉄道会社を辞めて中小企業大学校経営後継者コースに通ったのも、試験を通じてその存在を脳裏に擦り込まれたから、かも知れません。
いざ自分が中小企業の当事者となり元請の圧力と下請会の忖度に苦しむ中、手続きさえ踏めば公正にチャンスが訪れる公共事業は希望の光に見えました。もっとも、未だに不祥事として談合のニュースが散見されるように、キレイごとばかりではないでしょう。私も入札デビュー戦では「見慣れない顔だな」とドンと思しき老齢の男性から目を付けられ、後日ファミレスで2時間「その道」を説かれたこともありました。現在は入札もほとんど電子(Web)化され、このような目に遭うことはありません。
さて、入札資格には「工事」「物品」「委託」があり、それぞれに詳細カテゴリが設定されています。事業内容、許認可などに応じ申請しますが、当社は建設業許可を受けた電気、電気通信、消防施設を「工事」として申請するとともに、「物品」では工事に関連しそうなリース(賃貸借)などを複数登録しています。なお、千葉県では県、市町村、公益事業団など全自治体に対し一括申請が可能なため、当社を含む多くの会社はまとめて申請しています。
それを済ませたら晴れて受注!と簡単にはいきません。入札は公募に対し自ら手を挙げる一般競争入札と発注者が対象業者を予め指名する指名競争入札に大別できますが、すぐに指名されるわけではありません。各社営業担当は指名を受けるべく役所の公共事業発注部門を回り、これに対し受付には名刺入れが置かれています。他方、一般競争入札は各自治体がwebサイトで情報公開していますが、当然ながら自らこれを探索する必要があります。当社は元々依頼された工事を仕上げるだけの、営業的には受け身の会社。私自身もここに注力する余裕がなく、指名を受けてからおっとり刀で検討を開始する状態でした。それでも、指名入札で獲得した不法投棄監視カメラリース(千葉市/物品)や県立千葉高校電話交換機改修(県教育庁/工事)を皮切りに、徐々に仕事をいただけるようになりました。そして10月から、新たに県北部東葛地域の2自治体でリース案件を落札し、市民サービスのお手伝いを開始します。
松戸市庁舎防犯カメラ
まずは、松戸市役所庁舎の防犯カメラリース。松戸市は千葉県第3の人口を有し、古くは郡役所が置かれるなど東葛飾地域の中心都市です。江戸川挟んで東京都と接し、両岸を結ぶ矢切の渡しは今も運行されています。庁舎は3階建ての本館の裏に10階建ての新館、4階建ての別館、議会棟があります。
しかしながら、さらにこれでは収まらず、付近のビルには「松戸市役所○○課」の看板を多く見かけます。なお、私の生まれる前にはマツモトキヨシ創業者が市長を務め、「すぐやる課」の創設がニュースになった、と母から聞いたことがありますが、今も本館にありました。現在は庁舎の新庁舎整備計画もあるようですが、その間も市政と市民サービスは動き続けます。そこで既存カメラの老朽化に伴う更新と増設を当社がお手伝いすることとなりました。市役所は出生や婚姻など戸籍届を常時受け付けることから警備の方が夜間も常駐しています。新館地下1階にある夜間入口近くの防災センターで正面入口が確認できるよう、建物をまたいで配線し、カメラを設置します。当社工事担当者にとっては「いつもの仕事」。短納期でしたがスムーズに終えました。鎌ケ谷市役所窓口証紙印紙自動販売機
次は、鎌ヶ谷市役所。鎌ヶ谷市の市制施行は私と同い年(1971年)ですが、東武、新京成、北総(成田スカイアクセス)線と鉄道の結節点です。日本ハムファイターズの拠点があることでも有名で、駅の発車ベルにも球団応援歌が使われています。マニアックなものでは、印旛沼、手賀沼、東京湾の流域を分ける分水界もあります。
ここでのリース対象品は印紙証紙の自動販売機。当社としては工事の対象物をイメージして登録したリース業ですが、ここ数年はPCやタブレットなど対象品が増えてきました。とはいうものの、自動販売機の入札指名通知が来た時はさすがに面食らいました。用途はパスポート発行手続費用納付のためとのことですが、これは国(印紙)と県(証紙)の仕事であり、県内にいくつか旅券事務所があったはずですが、現在は市役所に窓口があるようです。
ところで、入札に参加するためにこの機械が当社で扱える代物か、まずは調達ルートを探す必要があります。現役で商業施設運営を担当する東急時代の同僚に両替機や自販機のメーカーを紹介してもらいましたが、要求仕様の「高額紙幣対応の汎用自動販売機」はありません。諦めかけていたところ、当社仕入先の電材店から「メンテナンスも含め手配できそうです!」との頼もしい回答。これまで当社リース案件では、私が担当として機器の手配、設定、納品を行ってきましたが、今回初めて外部に完全委託し、当社は完全にアセットホルダーのみの役回りとなる「ガチリース」です。手探りでの入札でしたが、幸運にも落札することができました。
納入する自動販売機は現在使用されているものの後継機ですが、2024年からの新券(渋沢栄一、津田梅子、北里柴三郎)対応、そしてICカードとQRコード決済対応オプションが付きました。もっとも、市役所は現金決済のみなので今回は関係ない、と思いきや、鎌ヶ谷市では住民票などの手数料はキャッシュレス決済対応とのことで、また驚きました。決済手数料には税金を使うことになりますが、それも含めて真に市民の役に立つことを考え抜いた末の判断だそうです。考えてみると銀行振込やコンビニ払いでも手数料はかかるわけで、自分の頭が固くなっていることに気付かされました。
そして9月最終週に設置です。
現在市民窓口はマイナポイント終了直前で大混雑ということもあり、閉庁後に作業を開始します。自動販売機は無人金券ショップでも使われる屋外仕様で、釣銭や領収書の取り出し口に風雨除けのふたが付いています。しかしながら、これが原因で釣銭など取り忘れが多かったそうで、今回は取り外しました。 最後にボタンと金額の設定を行い、完了です。
翌日、自販機の稼働確認を兼ねて自社使用分の印紙と証紙を自販機で購入してみました。二千円紙幣も使えるので敢えて投入して印紙4,000円+証紙2,000円の「未交付手数料セット」を購入。
印紙マニアとしては、当社の機械で印紙証紙を購入する感慨に浸るあまり、領収書発行ボタンを押し忘れてしまいました。テスト&記念の領収書を得るため私が再度購入する様子を見た市役所担当氏が、手書き領収書を発行してくれました。印刷された領収書の但し書きが「旅券発行」となっていますが、訂正していただきました。
自動販売機納入業者でありながら印紙証紙購入者としてお手間を取らせることとなりましたが、担当氏からは「用途限定で売っているわけではないことに気付けて、こちらも勉強になった」とお声がけいただきました。
そんな訳でこれから5年間、印紙証紙の販売をお手伝いします。