ご案内の通り、当社は「第2回建設人材育成優良企業表彰」で優秀賞をいただきました。国土交通省のプレスリリースによると応募74社中での表彰22社とのことで、3割が表彰と考えると「そこまでのものではない」ような気もしますが、全国に許可建設業者だけで474,948業者(国土交通省発表)もあると考えると、エントリーしたこと自体が人材育成に真剣に取り組んでいる証、と理解して素直に喜びたいと思います。
 本表彰の評価観点は、①CCUS(建設キャリアアップシステム)の活用、②若年者入職促進、③適正な下請代金による請負契約締結促進、④キャリアパスに基づいた人材育成等、⑤処遇の改善、⑥労働環境の改善、働き方改革、⑦女性定着促進、⑧その他、とのこと。
 筆頭に掲げられるCCUSは、その理念については大いに賛同できるものの、運用は甚だ心許なく本ブログでも2年前に言及していますが、ディスってばかりいても仕方がありません。その理念はしっかりいただき、自社用にアレンジしてキャリアプラン制度に仕立て直しました。父の時代の徒弟的な完全年功序列を覆した後の代替となる仕組みは、特に電気工事現業以外のキャリアを持つ中途採用者の処遇を考える上で必須と痛感し、人材募集にも活用していました。今春システム登録事業者宛メールマガジンで本表彰の募集を知り、運営元がCCUSの使い方コンテストを行うならば試しにと、手元資料で応募しました。

当社キャリアプラン(バージョンアップ予定)

当社キャリアプラン(バージョンアップ予定)

適性な請負代金による請負契約締結促進

 さて、改めて本表彰評価観点を眺めると、元請に対し配慮を求める項目が並びます。下請業者としては表彰にかかわらずぜひとも取り組んでいただきたいところです。そもそも当社がCCUSに加盟したきっかけは、元請から「ゼネコン(上位元請)の指示」という名目で登録を要求する通知文を受け取ったことでした。多重下請構造の末端企業としては唯々諾々と従うのみですが、事業者に加え工事担当者全員を個人登録する費用は、決して安くはありません。しかも、実際には当社に割り当てられる新築ゼネコン現場はほとんどありません。この点を元請工事担当者に質しても「上から言われただけ」と暖簾に腕押しです。母はいつもの通り「従わないと会社がつぶれるから」とお達しに従おうとしますが、盲従する先に未来があるとも思えません。そこで調べを進めると、下請はCCUSレベルに応じた労務単価を反映した見積作成し、元請はこれを受け入れることという将来像が示されていました。
 改めて元請担当者に「協力会社に登録を求めるということは、国交省に従い工事単価を上げるつもりがあるのですね?」と聞いたものの、案の定「そんな話は出ていないし、そもそも会社は国交省の資料も知らないと思う。ただ上(発注者)から言われたことを流しているだけ」と困惑した様子。大企業従業員の言動は個人の思惑(ほとんどが責任回避と辻褄合わせ)が真意で必ずしも会社の意思と一致しないことは、組織に属した経験があれば誰しも思い当たるところがあるでしょうが、下請零細企業側から見るとこの区別が付かず、末端従業員の則を超えた要求が「天の声」に聞こえます。ここが下請いじめの源流ですが、幼少時から両方の立場を往来し続け、この理不尽を両側から目の当たりにしてきた私は、時にアレルギー反応を起こします。
 ちなみに、元請からの発注は積算根拠が開示されないまま指値で行われ、当社が見積提出する機会はなく交渉の余地もありません。明らかに建設業法ガイドライン違反ですが、以前これを指摘しようとしたところ、元請本社で協力業者会役員企業による査問会が開かれ、元請部長に「文句があるならやめてもらって構わない」と恫喝され、床に放られた契約書を拾わされ、以後半年間受注が半減しました。これは当社に限ったことではないようで、協力業者会も「物言えば唇寒し」状態が続いてます。しかしながら、役員企業含め各社ともCCUSにメリットを見出さない限り登録しないようで、皆さん強かです。

下請いじめ撲滅元年

 このように、企業経営論の教科書に出てくるような「一社下請のリスク」をトラウマになるレベルで体験しましたが、なぜ(母や当社従業員も含め)自分以外は平気なのでしょうか? 「慣れ」「背負うものの重さ」「人としての器の大きさ」など色々言われましたが、結局「いじめの自覚がない」だけと思うようになりました。建設業法では対等な建設工事請負契約を求めていますが、具体的な違反行為の例示があることを知っている人は、下請側にはほとんどいないかもしれません。そもそも腕一本で飯を食ってきた親方が元請に対し「口」で勝負しても意味がないと思い込み、またそう仕組まれています。だから勉強が必要なのですが、現実は何となく理不尽に感じてもそのまま我慢し、一部の不心得な元請担当者がさらに増長する。やがてこれが身分的に固定化され、「業者の分際で」という言葉を投げつけられます。
 しかし、時代は変わりました。今年に入ってからは芸能や自動車整備、損害保険などの業界で不公正な取引慣行が明るみになりました。建設業界も真に魅力向上を目指すのであれば、この闇に光を当てることが必要不可欠です。ここを抜本的に改革しない限り、下請工事屋の担い手確保はただの「奴隷買い」になってしまいます。

下請工事会社代表の存在意義

 受注制限を受けていた頃、父が懇意にしていた元請の役職者に相談しました。すると「これで他社の仕事を受ける余裕ができたね」と意外な言葉をいただきました。これで解脱し、従業員に対しては「一人が二社元請を持つ。『客』は自分で選ぶ」とスローガンを掲げました。当初は懐疑的だった従業員も、実際に他社の仕事を請けると「職人としてリスペクトを受け、『やりづらいことはないですか?』と気遣いをいただいた」と嬉しそうに現場での様子を話していました。これまで「工事内容が特殊過ぎて転職もできない」と思い込まされていましたが、自社の技能が強みとして広く通じることを自覚できた瞬間でした。、
 今回応募資料でも提案した通り、当社では30,40代の中途採用に力を入れ、そのための教育体制も準備していますが、これはひとえに「現場で振り回される身分に堕ちたと絶望しないため」です。そのために、元請との(身分ではなく)役割分担を知り、請負範囲を明確化する。それ以上の要求には別料金が発生することを示し、個人の「お願い」ではなく会社として発注する意思を確認する。これはまさしくネットワーク工程管理研修で講師が協調していた内容そのもの。当たり前のことですが、現場で咄嗟にはなかなかできません。私は用心棒としてその時に備え、いつでも出動すべく理論武装してスタンバイしています。