昨年夏、ゼファー株式会社の久保社長から電話がありました。久保さんとは、彼の前職株式会社シルフィードとして白馬スキージャンプ競技場で風力発電を利用したイルミネーションの設置をお手伝いしましたが、当時から小型風力発電協会理事(現在は会長)としても活躍し、さらにその後小型風力発電設備最大手メーカーのゼファー社を自ら買収し、同社社長として陣頭指揮を執っているとのこと。電気の地産地消という社会使命に全身全霊を掛けて取り組む姿は、事業承継後日々の下請雑事に忙殺される私の目にはまぶしいほど輝いて見えました。
 それにあやかり自分もと、一昨年秋に千葉市新規事業創出支援事業に手を挙げてはみたものの、元請複線化による脱一社下請達成後の当社ビジョンについて「既存経営資源の有効活用」という命題で自縄自縛に陥り、苦悩していました。一方、新規顧客から請け負う新築現場では元請の工程管理に応じた末の長時間労働が続発し、2024年問題(労働時間上限規制の例外撤廃)対応が当社喫緊の経営課題であることを改めて突き付けられていました。
 そんな中、久保さんからいただいた電話の内容は、風力発電設備の設置依頼でした。ご無沙汰ながら当社と私を気にかけていただいたこと、メンタル弱めのタイミングで心に沁みました。しかも場所は東京都市大学横浜キャンパス。ということは、設置主体は五島育英会。そう、私の出身、東急グループです!いろいろな縁を感じながら、早速現調に伺いました。

風車の最適設置場所は?

 横浜市営地下鉄中川駅から5分ほど歩きキャンパス正門に到着。本部や学生食堂など低層の建物を正面付近に配置し、奥に中層の研究講義棟が控え、郊外キャンパスらしい開放感を演出していました。元東急グループの一員として少し誇らしく、都市計画を学んだものとして大いに感嘆しました。

 ところが、当社が正門に設置する風車と電柱は、この景観に大きな影響を与えます。当初いただいた案では、正門入口付近に高さ15mのコンクリート柱を設置し、その上に小型風車Airdolphin GTOを設置とのこと。東京都市大学には建築都市デザイン学部もあるとのことで、差し出がましくもその先生方に景観上の意見を聞きたい気もします。また施工目線では、渡り通路の屋根やレンガを地面に敷き詰めたインターロッキングなどが建柱車や高所作業車など重機の使用に支障を来し、その養生費が施工費に匹敵するレベルになることも懸念されます。
 そこで、当社として7階建て研究講義棟屋上への設置位置変更を提案しました。蓄電池ユニットの設置スペースや配線経路も確保できそうで、何より風が通り効果的な発電が見込めます。

研究講義棟屋上から横浜市都筑区を一望。風況もばっちりだが。。

屋上から横浜市都筑区を一望。風況もばっちりだが。。

 しかしながら、工学系実験を行う建物に対し風車が与える振動の懸念が払拭できないとのことで断念。最終的にバスロータリー入口に設置することとなりました。気が付くと、これら詳細仕様決定までに半年近くが経過していました。

3代目デビュー

 今回の設置は補助金を活用するため2022年末までの完成が必要とのことで、施工時間に余裕はありません。作業は建柱や蓄電池の基礎等の土木工事も含みます。建柱は専門業者に依頼しつつ、天候と相談しながら生コンを発注し、これに間に合わせるように蓄電池ユニット基礎の鉄筋と型枠を組み上げます。

蓄電池ユニット基礎の型枠は前日夕方に完成

蓄電池ユニット基礎の型枠は前日夕方に完成

 また、工事担当者のために近隣ホテルを確保し、当社として働き方改革と2024年問題対応の実証実験も併せて行います。

 さらに、当社の「秘密兵器」17歳2名を投入します。私は高校1年夏休みから父の厳命で抗弁の余地なく部活後に現場へ直行していましたが、それは昭和~平成バブル時代の話。厳格な安全管理が求められる現在、特別教育の受講など所定のトレーニングを経ずしては工事現場に入工できません。今回実際に行う作業はあくまで職業体験レベルの補助作業のみですが、それでも現場は助かります。
 まずは、我が長男。これまでアルバイト禁止の校則を盾に断り続けていましたが、今回は受験生としてのキャンパス見学を兼ねて打診したところ、渋々ながら学校に確認することとなりました。長男は私が書いたアルバイト申請書を提出し不可を前提にクラス担任、学年主任教諭と面談しましたが、「家業の手伝い偉いね」と意に反してOKが出てしまったようです。現場では2日間、コンクリート練りや配管埋設など土木系作業を行いました。

配管作業 木の根の下を通します

埋設配管作業 木の根の下を通します

 次に、昨年承継した平泉電気先代のお孫さんで高専2年生の吉賀君。お爺さんから電気工事の話を聞いたことはこれまでなかったそうですが、偶然にも当地の近所在住という縁でお爺さんが60年携わってきた仕事を体験することとなりました。冬休みもロボコン部の活動が忙しく1日だけでしたが、高専の作業服を着て補助作業をこなしつつ、電気配線などプロの施工を興味津々に見学していました。
屋外露出配管作業 PF管を伸ばします

屋外露出配管作業 PF管を伸ばします

 当社と平泉電気それぞれの創業者孫の手伝いを得ながら、作業はここからが本番。風車の設置、調整はゼファーの皆さんにご指導をいただきます。
高所作業車で風車を設置

高所作業車で風車を設置

 電気工事部分は当社の本職。蓄電池ユニットの据付、屋内外の配線、受変電室内での系統連系、仕上げの試験調整などを行い、何とか年末29日に無事完了しました。
夜景に映える風車は新たなランドマーク

夕景に映える風車は新たなランドマーク

現場の姉弟子を訪問

 さて、今回の風力発電設備導入は、文部科学省デジタルと専門分野の掛け合わせによる産業DXをけん引する高度専門人材育成事業の採択によるもので、教育実習施設の位置付けだそうです。東京都市大学は7学部17学科(2022年度)を擁しますが、本事業には環境学部が主導しているとのこと。そこでふと思い出しました。環境学部といえば、もしかして室田さんの勤務先? そういえば現調の際に校舎内でポスターを見た気が。。メールで確認したところ、直接関与はしていないものの、当社が設置した風車が教授室の窓から見えるとのことでした。
 後日、改めて同大学環境学部環境創生学科の室田昌子教授を訪ねました。室田さんは研究所勤務などを経て96年に東京工業大学社会理工学研究科博士課程後期に入学されました。私の卒業とは入れ替わりですが、同じ都市計画講座の大先輩、ともに中井検裕先生に師事した姉弟子にあたります。東京都市大学では前環境学部長も務められていましたが、今年3月に定年退官とのことで、大掃除の最中にお邪魔しました。

東京都市大室田教授と

東京都市大室田昌子教授と

 室田さんの専門分野は「居住・コミュニティ環境の再生」で、地域コミュニティに分け入り実査を行っています。コロナ禍前は千葉県内のニュータウンにも足を運んでいたそうで、私の地元や電鉄駅ビル開発時代などの住宅地コミュミティ話に花が咲きました。私自身、下請電気工事屋として学術の世界と縁遠くなった寂しさもありましたが、今の自分の立場ならではの視点から面白いことができるのでは、と示唆いただきました。また、蔵書の多くを処分しなければならないとのことで著書のサイン本を含め何冊かいただきました。
6階から見た風車

6階から見た風車

 6階にある教授室からは、眼下に当社が設置した風力発電設備がよく見えます。当日は残念ながら風車はあまり回っていませんでしたが、今後これを使って環境とDXに関する研究、教育が行われると考えると、今の自分も社会工学しているのかも、と前向きにとらえられるようになりました。