前回はこちら ←当初申請時の記事を関連付けました。

 確定申告の季節が始まりました。今年は初日に国税庁など各地でデモが行われる等モリカケ的に盛り上がったようですね。千葉の様子を見に行きたかったのですが、残念ながら現場で打合せでした。

 さて、この時期は昨年末公表の税制改正にも改めて注目が集まりますが、中でも中小企業の事業承継支援の目玉として事業承継税制がさらに大幅に拡充されるとのことです。日本商工会議所のwebサイトでは、事業承継税制のポイントをまとめてありました。

 事業承継税制は平成25年に創設され、28年に拡充されましたが、利用者はほとんどいなかったようです。当社は一昨年に父の保有分株式を私が譲受し、昨年の確定申告で事業承継税制を適用しましたが、5年目にして所轄の千葉東税務署で第1号だったとのこと。そのため、昨年ご報告の通り税務署においても前例もないため詳細未定の部分が多く担当者も手探りで、後で考えると整合性がない資料要求もいくつかありました。一例をあげると、贈与税の納税猶予額には利息がかかり、さらに利息を含めた額を限度として対象株式に対し質権が設定されます。ここで贈与税の納税猶予期間は父が死亡する(相続税に切替)までですが、なぜか利息計算は私の平均寿命まで30年以上を対象とされたため、質権設定額は株式評価額(計算方法は相続税基準)のほぼ倍額となりました。

 このように昨年事業承継税制を「やってみた」者として、それほどお得感はありませんでした。そして実際利用者はほとんどいなかったわけですが、今年拡充された内容がどれだけお得なのか、前述の事業承継税制のポイントに従って、当社の「ぶっちゃけ実例」をもとに検証していきたいと思います。

①事業承継時の納税負担がゼロに!
 従前は納税猶予割合は53%(=全株式の2/3のうち猶予割合80%)だったものが、全株式の100%納税猶予が可能となり、自己負担が実質0となります。当社は一昨年に父保有分80%の株式を全額譲渡したため、まあまあ(小規模企業なのに、、)の贈与税が発生しました。私はこれを回避するために相続時通算課税制度を使用しましたが、これは父の死後に相続税として他の遺産と合算して払うことになり、その場しのぎにしかなりません。
 今年以降に贈与すれば全額猶予できた、と考えるとかなりもったいないことをしました。

②納税猶予打ち切りリスクを最小化!
 雇用維持要件とよばれ、事業承継税制を行う上でもっとも厳しい規定がこれでした。従業員数が承継時の80%を割り込むと猶予が打ち切られて猶予額に利息を付して支払わないといけません。お上(国税庁、中小企業庁)的な考え方として、「中小企業の使命は雇用維持であり、これができない中小企業に用はない」ということでしょうが、この環境激変時に向こう5年の雇用維持を確信できる後継者は果たしてどれだけいるでしょうか? 特に、現在建設業は未曽有の求人難。3Kと呼ばれるブルーカラー人材を集められず、引き受け手のいない中小企業の後継者が雇用維持要件に抵触して納税借金に陥る、という中々シュールな光景が目の前に迫ります。
 あまりにも評判が悪かったようで、今年以降は雇用維持要件抵触時にも理由報告により免除されるようです。具体的な手続の詳細は確認できていませんが、当社にも適用されるのであれば助かります。

③将来の納税不安を大幅に軽減!
 贈与税額は贈与時の株式評価額が基準となりますが、当初は倒産しても贈与税は免除されませんでした。リスク管理の第一歩として最悪の事態を想定した時、事業債務に贈与税額が加わると考えると、冗談抜きに夜逃げか自殺が脳裏をよぎります。平成28年改定で後継者死亡と倒産時には贈与税免除となりましたが、逆に経営不振に陥ったら自己破産するしかなくなります。私の場合、末期がんの父に会社都合で死んでもらうように終末医療をコントロールすることも頭に浮かんできます。
 今後は、創業者の父がそうであった通り「ダメでも0に戻るだけ」と、税務的には言えるようになりそうです。

④多様な事業承継を促進!
 これまでは「旧代表取締役→新代表取締役」の一子相伝のみが対象でした。当社は父(社長)と後輩(専務)で創業しましたが、25年前の専務退職時に母が株式(正しくは有限会社持分)を買い取りました。そのため、私が母から贈与を受ける場合100%贈与税がかかるため、その対策も考える必要がありました。
 これからは贈与者、受贈者とも複数人が認められるようになり、私の場合も、母からの株式承継については(もともと少額ながら)贈与税が実質免除となりました。

 以上、今回の税制改正は概ね使いやすくなったといえそうですが、事業承継税制の本質が変わったわけではありません。それはすなわち、人生において「後継者以外の選択肢を捨てること」の宣言であることです。
 2017年版中小企業白書では、親子間の事業承継減少の現実に対応すべく、事業承継の一類型としてM&A=第三者承継について言及されています。私も学生時代アルバイトとして現場に出ていたこともあり卒業時に周囲から「継がないの?」と散々言われましたが、「職業=親父の息子」となって同じく下請けの悲哀に浸かる人生はご免蒙ると思い大企業に総合職として就職しました。それから20年、結局父は後継者を決められず病に倒れ、私が介護離職の上引き継ぎました。それでは次はどうするか、次世代に承継しない限り利息を付して贈与税(または相続税)を払わないといけません。
 限りある人生の第3クォーター、自分はどう生きたいのか、税務面からも重い課題を突き付けられています。

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