何度かここで紹介しているマネジメントゲームですが、ついに社内研修として実行しました。昨年2月に中小企業大学校経営後継者コースのOBOG研修で髙橋茂人先生と再会し、相談を重ねて1年半。当初は多くの会社と同様に1泊2日の合宿形式を提案いただきましたが、コロナ禍で宿泊研修会場の確保もままならず、そのうちに千葉JPFドームなど長期大型案件が始まり、その完了まで開催はお預けとなりました。さらに今年に入ってもコロナ禍は改善せず、当社工事担当者からもクラスター発生のリスクを指摘され、最終的に近所のコミュニティセンターにて2日間日帰りで行うこととしました。
せっかくなので、合宿では参加が無理だった事務担当のパートさんにも参加を要請したところ、日常業務との関係で「月曜以外で勤務時間の範囲であれば」OKとのこと。他にも「大規模案件の完了検査直後は手直しがあるかも」「新規大型案件がもうすぐ始まる」「そろそろ初孫の予定日」など公私様々な予定を調整したところ、6月29日、30日という四半期末の「書入れ時」しか実施可能日がありませんでした。とは言え、ここを逃すと次回はいつ時間が取れるか分かりません。顧客各社には各担当から事情を説明してもらい、LAN研修以来1年半ぶりの全社研修です。
いざ初日、留守番の母を事務所に残し、コミュニティセンターに全員が集合です。マネジメントゲームは普段は経営幹部研修として利用されることが多いようですが、当社のような小規模企業の現業担当者でもゲーム自体を楽しみながら経営感覚が身に付くような工夫がなされています。
まずは「習うより慣れよ」でゲーム盤をセットし、ゲーム用のお札を配り、いざ開始。現金残高をにらみつつ順番に仕入れや製造、設備投資などの意思決定を重ねます。そして販売はすべて入札。金額の入ったカードを手にし、相手の顔と手元を覗きつつ、相手より1円安く落札するために駆け引きが行われます。さらに、たまに引かれる「リスクカード」では予期せぬ損得が発生し、思い通りに行かないこともしばしばです。「人生ゲームみたい」と和気あいあいと進行します。
そんなこんなで第1期終了。ここで決算を行いますが、ゲーム用に開発されたPL(損益計算書)とBS(貸借対照表)を一体で作成できるワークシートを使います。まずは現金照合と棚卸。当社は5月末決算で各担当者は作業者や倉庫内の材料実地棚卸を終えたばかりですが、期せずしてその後工程となる原価計算業務をゲームで学ぶこととなりました。
というのが理想ですが、決算業務に全員悪戦苦闘です。何度電卓をたたいても数字が合わず、中には心が折れてしまう者も。。ここで髙橋先生から「最初は皆そう。初日は分からなくても言われた通りに計算しよう。」と指導が入ります。ちなみに先生はこの道45年、母と同い年ですが、マスク越しでも声がよく通ります。
そして、休憩をはさみ2期目開始。徐々にゲームの進行には慣れてきて、入札も勘所を掴んできました。そしてまた決算業務。 実はマネジメントゲーム研修は地元法人会でも経理専門学校と提携して行われていますが、決算業務はコンピュータで自動化され手計算は行わないとのこと。別途簿記の授業で習うため不要とのことですが、当社研修としては「儲かるって、具体的にどういうこと?」が分かるためにも是非自分で計算してほしいところ。おまけに、2期目は総合原価計算から直接原価計算に変更され、数字の持つ意味も変わりました。何とか決算数値がまとまったところで、初日終了。全員ヘロヘロになって終了しました。
2日目、参加者の表情にゲームの面白さと決算作業のつらさが相半ばする中、3期目からはこれに加えて予算も策定します。まずは、「欲しい利益はいくら?」 そう、利益は残り(結果)ではなく最初(目的)に自分で決める「意思決定」です! と言いながら、実戦では当社は父も私も特に年度予算を立てず、成り行き経営でここまで来ています。反省。
次に固定費。何にいくら使うか、これも意思決定です。とは言え、人件費など何もしなくても出費はかさみます。そして固定費と利益予算との合算額が「必要粗利益」です。
実際にこれを得るために、原価と売価を想定し限界(粗)利益率を算出します。ゲーム上最大の原価要素である仕入れ価格も、市況に応じて変化します。また、売価は入札により「相手次第」となる上、そもそも勝たなければ売り上げが立ちません。こうして設定した必要粗利益と粗利益率から目標販売個数が割り出されます。これを全員が紙に書いて発表し、いざ3期目スタート。
なお2日目は販売実績数に応じてクラス分けが行われ、入札にも一層力が入ります。また、2日目は慣れたところでゲームのお札を廃止。すべて出納帳で現金管理を行います。さらに、進行速度が成績に直結することが分かってきたため、「経済を回せ」とばかりに急ぎだします。段々雰囲気が麻雀のようになり「先ヅモ禁止」などの声もかかりだしました。
結局、2日目は4期目のゲーム終了時点で時間切れ、決算業務は宿題となり、当社初のマネジメントゲーム研修が幕を閉じました。先生からの締めの言葉として、以下の言葉をいただきました。
数を売らないと、固定費も回収できない
さて、終了後のわずかな時間を利用して、私から今回研修の狙いをタネ明かし。
私の着任当初、当社は一社下請で指値の一式受注であり、見積作成は一部の大規模工事に対してのみ特定の担当者が行っていました。そのため普段から工事価格と工事品質および原価とのバランスを意識する機会はほとんどありませんでした。
これに対し、今や全員が新たな請負先に見積を提出しています。相見積ならば当然価格勝負になりますが、それよりも自社の実行原価を踏まえた上で相手に納得してもらえる見積項目を提示することが重要です。これは現場作業の技能スキルとは全く異なるものであり、このための最高の訓練の場としてマネジメントゲームを是非行いたいと考えていました。そしてこれを「当社における見積作成の必修科目」として当社キャリアマップの中核に位置づけました。
技能労働者としての見積作成は、自分の腕に値段を付けることでもあり、やりづらい面もあると思います。とは言え、私の中小企業診断士の師匠曰く「自分に値付けができて一人前」とのこと。確かに、これさえできれば、たとえ当社が立ち行かなくなっても工事担当者は「一人で飯を食っていける」ことでしょう。現場に戻ると日々施主様から、営業担当氏から「サービスでついで工事」を頼まれ、その場の空気で対応せざるを得ないこともありますが、
今、自分がここにいることは、タダじゃない。安くない。
ことだけは、忘れずにいてほしいと思います。
次回実施時期は未定ですが、幸い社内でも好評であり、今後も定期的に行いたいと思います。そしてそのために固定費として研修費予算を確保する所存です。