東京理科大学との共同研究により青森県上北郡横浜町に設置した風況調査設備も、3年間の役目を終えて無事撤去してきました。

3年の役目を終えた計測機器は大学へ返却

3年の役目を終えた計測機器は大学へ返却


 当地は陸奥湾に面した下北半島の最狭部、JR大湊線吹越駅からほど近い位置で、安定した風況から近隣には大型小型を問わず風況発電設備が多数設置されています。

 東隣の六ケ所村は核燃料再処理工場で有名ですが、現地ではそれ以上に高さ100mを優に超える大型風車の威容に驚かされます。
六ケ所原燃PRセンター展望塔から

六ケ所原燃PRセンター展望塔から


 原子力と自然エネルギー発電設備の両端が一堂に会する、ある面ではシュールな光景が一望できます。

 設置場所は、42年前に父が自衛隊(少年工科学校)時代の同期から頼まれて買戻しの口約束の下で購入した、いわゆる原野商法の対象地です。父は同年当社設立、自宅(当社本店)購入と立て続けに大きな出費をしていますが、母曰く、「15歳から同じ釜の飯を食った俺の同期を疑うのか!?」とタンカを切ったそうです。
 私がこの土地の存在を初めて知ったのはその13年後、20歳の夏でした。岩手県北への母実家帰省から足を延ばして恐山へ家族旅行の途中、法務局で謄本と公図を入手し、大まかな場所を教えてもらい、最後は農家の方に「あの防風林あたりでは?」と遠くを指さされて、現地確認を終えました。

高所作業車上から陸奥湾と下北半島南端部を望む

高所作業車上から陸奥湾と下北半島南端部を望む


 その後、不動産ファンドバブル時代には売却鑑定の広告が父に届いたとのことで、当時私は不動産投資ファンドAMだったこともあり母から処分の相談を受けましたが、同僚の不動産鑑定士からの「買う人がいれば値が付くけど、ね」との冷静なアドバイスに意気消沈。さらに近年は風力発電用地として地元不動産屋から買取DMが来たこともあったそうです。
 そんなこんなで当地は結局40年塩漬け。おまけに見知らぬ「原野商法被害者仲間」との共有物件です。父の病状を横目で見ながら事業承継と並行して遺産相続を念頭に実態把握を進める中で、この土地をどうするかに頭を悩ませていました。
 3年前、まずは登記簿を頼りに持分共有者を訪問したところ、「相方」は20年前に亡くなられたとのことで、奥様に応対いただきました。当該地の存在はやはり最近届いた風力発電用地買取DMで知ったものの、遺産相続時にも一切履歴がなく寝耳に水だったそうです。そこで私が共有持分の買取りを申し出て、相続から売買までの登記手続きを行いました。その勢いで隣地の登記を見ると、やはり同時期に購入した方が都内にいました。訪問して話を聞くと、「数年前にも売地看板の設置代金を払った」とのことで、やはり疑心暗鬼でした。こちらの素性を説明し、隣地の使用許諾をいただきました。
 せっかくここまで権利を整理したからと、当社で小型風力発電事業を立ち上げよう考えましたが、最寄りの電柱まで500m以上あり、規模的に引込線の敷設コストを回収できません。そこで、偶然にも高校水球部同期の近藤君が大学教員として自然エネルギー発電の系統連系を研究していたことから、共同研究として風向風速計と通信設備一式をソーラーパネルで駆動させてデータを取得してみることとしました。なお、近藤君は東工大に現役合格かつ大学院飛び級のため、大学では2年先輩になります。

 その後も、当社の新事業研究として当地で小型風力発電ができないかと検討しましたが、さすがに千葉から700km掛けてメンテナンスに行くのは現実的ではありません。また、20kW未満の小型風力発電に対する固定買取価格は2018年度に50円/kWhから22円/kWhに下げられました。当時固定買い取り単価の高さから開発権の取引のみが活発に行われる「小型風力バブル」状態でしたが、一気に終息しました。これについても青森県内の有力企業を紹介してもらい実情を伺いましたが、やはり地元内外の利権が複雑に絡み合い、当社では太刀打ちできないことを思い知りました。

©2002-2007 Japan Weather Association, NEDO

©2002-2007 Japan Weather Association, NEDO


 生前父は、環境問題対策としての自然エネルギーの普及を夢見て黎明期に三洋電機の代理店として住宅用太陽光発電工事を手掛けていましたが、同社の経営合理化の余波を受けて撤退しました。私としては、父の志を継いで、「15歳から同じ釜の飯を食った同期」の知恵を借りて、発電事業を立ち上げることで、当社を承継した意味が見いだせるとも夢想していましたが、現実は甘くありせん。無理すれば「50円/kWh」の権利を取れたのでしょうが、これが本意ではありません。最終的には「赤字を出してまで無理してやることはない」という言葉を地元有力者からいただき、いったん様子見としました。そして丁度その頃、父が息を引き取りました。

 さて、今夏、当地の周りには小型風力発電設備が徐々に立ち上がっています。3年前の調査時点では、150件ほどの計画届が受理されていました。当時計画地は一面森でしたが、その後木が倒され、砂利が敷かれ道となり、電柱が立ち高圧電線が通され、10mクラスの風車が建ちました。さらに一部では地面にソーラーパネルが設置されています。地球環境保護のための自然エネルギー利用のはずですが、森林伐採が先行して行われている様を目の当たりにすると、本当に環境に優しいと言えるのか、考えてしまいます。

伐木、土地造成、砂利舗装、高圧電線引込、風車建込で1セット

伐木、土地造成、砂利舗装、高圧電線引込、風車建込で1セット


 そういえば、鉄道会社で受けた新入社員研修でも、都市開発事業部の管理職に対し生意気にも同様の質問をしたことを思い出しました。大学で受けた原科先生(現千葉商科大学長)の環境アセスメント演習では、「Do nothing」を含め代替案をスコア化の上比較検討しましたが、日本ではこれを「回避すべき厄介な法規制コスト要因」として忌避されることも多いようです。もっとも、当社も千葉のメガソーラーの防犯カメラ設置などのお仕事をいただいているので、こんなこと言える立場ではありませんが。

 今、これを書いている間にも、「○○パワーです! 利回りが良いソーラー発電に投資しませんか?」という電話がかかってきました。コロナ禍の影響か不慣れな電話営業が増えていますが、少なくとも本業として前線に立つ皆さんには「環境にやさしい自然破壊」の功罪について、少しだけでも考えてもらえればと思います。