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 家業承継に伴い通勤手段が電車から自動車に代わり早5年、ラジオが身近な存在になっています。CMも工夫を凝らしたものが多く、新たな気づきが得られます。承継当初は過払い金返還請求に関する司法書士法人のCMがよく流れていましたが、最近はこれに続き「お葬式が終わったら、相続税が心配。そんな時代」と税理士法人も耳にするようになりました。そう、私は相続税納税義務者です。

 相続税は、被相続人の死後10か月以内が申告期限。しかしながら、その前にも民法による相続放棄の有無(3か月)、所得税の準確定申告(4か月)など、死後期限を区切った手続きや意思決定の期限が次々に訪れます。これに加え、私は父引退時に事業承継税制による贈与税の納税猶予を適用していたため、これに関する意思決定も必要でした。
 事業承継税制は、必ずしも後継者にとって使いやすいものではありません。「日本経済の活力維持ために」というお題目からなのでしょうか、雇用維持要件や経営悪化時の扱い等、納税猶予の代償は企業債務の連帯保証以上に重くのしかかってきます。公務員たる制度設計者の目には、未だに「跡を継ぐ→楽して資産と仕事が手に入る→ズルい」と映っているのではないか?と思うこともしばしばです。その後、あまりに利用者が少なかったため時限措置により制度が大幅に拡充されましたが、今度は手続きの不明瞭さに拍車がかかってきました。通常の法的手続きは法律の条文に直接記述するか、少なくとも本文に「別途定める」と記載され、それに基づき施行令や施行規則で具体的に指定されます。ところが、事業承継税制ではこの整合性が図られず、おざなり感は拭いきれません。また、現代は頼みの綱となる国のホームページも中小企業庁、国税庁などに散在し、やっと該当ページを見つけたと思ったら必要な手引きが「準備中」であることも。さらに担当部署も国(経済産業局)から都道府県に移管され、手探りの状態が続きます。もしかしたら、事業承継後に経営支援機関(=金融機関、税理士、会計士等。中小企業診断士は蚊帳の外)の診断を必要としたことから、自社での手続きは想定外なのかもしれません。
 では、事業承継税制の利用によるメリットはどの程度?と問われると、それは事業規模次第でしょうか。事業承継税制は贈与税(生前)と相続税(死後)の2段階がありますが、これまで適用されていたのは贈与税。株式(有限会社なので正しくは「持分」)をもらって税金を払うと、私個人の現金収支はマイナスです。そのため父が倒れた際は納税猶予を利用しました。
 さて、事業承継税制適用者は、贈与者が死亡した場合、県知事宛に「臨時報告」を8か月以内に行い、確認を受けなければなりません。

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県知事宛て臨時報告 確認書付きで返送

 そして同時に相続税の納税猶予の申請も期限を迎えるため、そこで死後も事業承継税制の適用を受けるか意思決定が必要です。そこで上記の事業承継税制適用による面倒を鑑み税理士に相談したところ、適用のメリットは極めて小さいとの結論に至りました。
 ちなみに、似た名前で「随時報告」というものもありますが、これは後継者(私)が先代(父)より先に死んだ場合に提出するもので、期限は後継者の死後1か月とされています。

 あとは、税務署に相続税申告の際に贈与税の免除を届け出て確定です。

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税務署からの「お尋ね」と免除届


 なお、納税猶予に当たっては当該株式に質権が設定されます。当初は、納税猶予を受けるためには株券を税務署に物納しなければならなかったそうで、株式不発行会社はコストをかけて新規に発行し、場合によっては定款を変更することもあったそうですが、私が申請した当時は株式府発行の場合は差入書でOKでした。そして今回、無事株式に対する質権消滅通知を受領し、晴れて「税務署管理会社」から自由の身となりました。
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税務署から「担保解除」と「質権消滅」

 これで、父の死去に伴う手続きはすべて完了しました。当社の経営についても「家業の引き継ぎ」から「自分の会社」にマインドを変えていかなければなりません。自分が当社で何をしたいのか、したくないのか、墓前で自問自答です。