私の新卒就職先は東京急行電鉄(現:東急)株式会社。その新入社員研修は、手厚くかつ独特なものでした。
新入社員は全員が1年間専用寮に入り、同じ釜の飯を食いながら、毎週木曜日夕方に研修を受けます。その間は研修生として現業に仮配属されます。3か月の駅員経験後、電車車掌、運転士、ホテルマン、ガソリンスタンド、駅構内のケンタッキーフライドチキン&ミスタードーナツ、ケーブルテレビの営業、ハウスカードの店頭募集のうち、半年間毎2か所に勤務します。今思えば、本配属後担当する管理業務の対象となるキャッシュフローの源泉を実地体感させるという親心でしょうが、20代前半の若者にとってフリーターのような生活は成長が感じられず、もどかしいものがありました。
そして晴れて本配属。同期の皆は渋谷の本社で待ち焦がれたビジネスマンデビュー!でしたが、自分は拝命した辞令を見て???
「ビル事業部営業部たまプラーザSC総合事務所 勤務を命ずる」
ここは木曜研修で見学には行ったけど、、渋谷でない、土日休みでない? 開発業務でない!?
私の出身は工学部社会工学科都市計画専攻。大学が沿線にあることも関係してか多くの先輩が同じルートを歩んでいますが、押しなべて市街地再開発など専攻を活かした仕事をしている、はず。「なぜ??」と疑問に感じる間もなく、配属初日から夏バーゲン直前準備のお祭り騒ぎに巻き込まれていきました。。
それから3年半、隣の都市開発事業部が遊休地活用を目的にグランベリーモールを企画、開発しました。沿線既存施設のたまプラーザSC、そして社内的にはビル事業部としては、都内初、東京ドーム2個分の大型商業施設は、まさに驚異のライバル出現です。
と思ったら、開業3か月前にそこに異動辞令。「若手経験者求む」ということで、運営についてソフト面全般の構築を任されました。
すでにSCコンセプトやテナントミクスなどの大枠は出来上がり、残るは詰めの細かい作業です。現地採用の事務所スタッフの教育、テナント会の運営、売上管理等各種システムの設定運用、管理会計。。企画開発を担当した同期女性が華やかにマスコミの取材を受ける中、私は事務所で裏方仕事。グランドオープンの瞬間も、持ち場は事務所でした。
今思うと、ここで自分のキャリアが定まりました。その後不動産投資ファンド、ITコンサル、そして当社と転じましたが、当時の経験が大きな糧となっています。一見SCとは縁のないIT&電気通信分野においても、CAT(クレジット端末)をからホストコンピュータまで道路をまたいで通信する必要から、当時まだ珍しかったVPNやクラスCのIPアドレス設定などを実体験できました。
そしてあれから20年、グランベリーモールは暫定の遊休地活用施設から大きく成長し、昨日グランベリーパークとしてグランドオープンしました。
専業主婦になった当時のアシスタントから誘われ、開業日にプチ同窓会。お互い小中学生の親となり、子供が小さい時に一緒に見ていたEテレ「ひつじのショーン」のコンセプトカフェで近況報告。
園内では、応援スタッフとして駆けつけている当時の上司、先輩、同僚と数多く顔を合わせ、喜びを分かち合いました。公園との一体化を進めた元グランベリーモール2代目総支配人、リーシングでテナントミクスを描き切ったたまプラーザSCの先輩、20年前に当地でSCデビューし、今は現場を取り仕切る元アシスタント。それぞれに思い入れがあります。中でも、初代グランベリーパーク総支配人は新入社員寮で同じ釜の飯を食った同期。マスコミ対応に追われながらも広すぎる全体をくまなく歩き、初日を見守っていました。
「で、宮下は家業を継いだんだっけ?」
そうです! 当社は防犯工事業者として、グランベリーパークではセンサー、カメラ工事を行いました!!家業承継後、本社勤務時代の課長補佐が東急セキュリティ株式会社様に出向した際にお声がけいただき、本業でご恩返しができるようになりました。今年5月には当社から従業員1名が出向し、施工管理も行ってきました。事務所での全体管理から天井裏の配線工事に守備範囲は変わりましたが、私もグランベリーパークの一関係者として、再びまちづくりに関わることができました。
今回、グランベリーパークの工事請負に先立ち、初代総支配人の墓前報告に行きました。
直属上司の総支配人は、都市工学科出身で専攻領域が近いうえに総合研究所での勤務が長く、私のコンサルタントとしての師匠でもありました。自分のコアスキルとなった計数管理を指南いただき、私の結婚式前夜も3時まで二人でExcelを叩いてました。また、中小企業診断士としても先輩で、私を見て半年の勉強で先に合格するほどの方でした。退職後も大学非常勤講師を紹介いただくなど気にかけていただきましたが、若くして病気に倒れ、早逝されたことが残念でなりません。今回の仕事で少しは恩返しできたでしょうか?
スヌーピーミュージアムなどの2期オープンは12月。落ち着いたころに「凱旋施工」を墓前報告してきます。