9月1日、デジタル庁が発足しました。シンプルなwebサイトですが、狙ってでしょうか? これからのコンテンツ充実に期待しましょう。

 国の施策では、新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」など、これまでの残念なシステムの話題を少なからず耳にします。以前は宅建業電子申請システムが5年(2007~2012)で休止されたこともありました。当時私は不動産投資ファンドでユーザーとしてシステム構築に携わっていたこともあり自分で電子申請してみましたが、手間がかかりすぎて「これ使う意味ある?」と思ったものでした。その後、自らがシステムコンサルに転じて、ユーザーの立場に立つことがいかに大事で、かつ難しいかを痛感しました。当時の国土交通省不動産業課の担当官は、自ら同システムで宅建主任者の登録申請を行うことは想定していなかったことでしょう。また、当社元請も「業者向けシステムを作る」と宣言して早5年、未だに日の目を見ません。当社窓口の工事管理部署でも「話が降りてこない」とのことで勘定系も含めて並行稼働なしのぶっつけ本番のようです。また機能要件についても下請同業者がヒアリングを受けたという話も聞こえてきません。そこで突然カットオーバー日が告知されその一週間前にWeb説明会、さらにここで考慮漏れが発見されたようで、2営業日前に延期になりました。こうして動かないコンピュータがまた一つできそうです。
 一方で、e-taxなど年々改良を重ね今や主流のシステムになっているものも多くあります。私も確定申告をするようになってから20年近く経ちますが、当初は「システム非対応」の申告内容も多々ありました。それが今や個人所得税、贈与税、消費税の確定申告はスマホですべてOK、青色申告なら電子申請で税金も安くなる等のインセンティブもあります。さらにすごいのは、毎年細かく変わる税制に(当たり前ですが)完全対応し、更にUI(ユーザーインターフェース)も年々進化しています。これについて大手システム会社で「中の人」をしている東工大の同期からシステム開発工数を聞き、国としての本気度の違いを思い知らされました。

 さて、我が建設業界では、2年前に「建設キャリアアップシステム」が稼働しました。建設業で働く技能労働者のキャリアを証明するとのことで、技能労働者に個人単位でカードを付与し、現場で入工登録を行うことで実績を証明し、そのキャリアと保有資格に応じて技能を証明するものです。
 当社の主力でもある建設業技能労働者は近年人材難が著しく、建設業法では担い手の確保を業者に義務付けている程ですが、就業が敬遠される原因として、従前から言われる「3K(きつい、汚い、危険)」に加え、能力や経験などが正当に評価されないという問題点が指摘されていました。これを解消すべく、「技能の見える化」を標榜して2019年から技能者の能力評価を行うと発表されましたが、実際のレベル1~4についての評価基準は順次各工事団体が決めるとしました。

技能者の能力判定

技能者の能力判定

 当時、一零細下請工事業者の当社の視点からは登録するメリットが全くなく他人事として聞いていましたが、2019年4月から労働局助成金のうち賃金助成の一部に「建設キャリアアップシステムで1割増し」が始まりました。当社としては研修4日分の賃金助成で元が取れますが、一方で、業界団体が行う説明会には1000万円単位で補助金が支給されるようです。つくづく末端にお金が回らない仕掛けが施されていることに感心します。

首相官邸HPの厚労省資料。お察し申し上げます

首相官邸HPの厚労省資料。お察し申し上げます


 また、登録基幹技能者は2020年3月までゴールドカード(レベル4)が無料という開業キャンペーンもあり、とり急ぎ該当者個人のみ登録しました。
 その後、業界団体の(一社)日本電設工業協会がレベル判定基準を公表しました。それによると、当社の工事担当者は多くが「シルバーカード(レベル3)」を取得できるようです。
電気(通信)工事のレベル判定基準

電気(通信)工事のレベル判定基準


 さらに、国土交通省は「2020年11月から先着5,000名限定でWeb講習の受講でレベル判定無料」キャンペーンを始めました。母親(当社取締役)譲りで「限定」に弱く、仕事でもショッピングセンターで集客インベントを担当した身としては、思わず反応してしまいます。さらに調べを進めると、国土交通省は入札参加のための経営事項審査の技術評価としてレベル3,4保有者を加点評価し、さらに元請各社に対しても「技能者に対する適正な労務費」の根拠としてレベル判定を活用するよう施策を講じるとのこと。丁度時を同じくして、元請からも登録状況の調査と登録催促がありました。機は熟したか、とりあえずレベル3有資格者は登録することとしました。

 なお、レベル判定システムは建設キャリアアップシステムとは独立運用の「別物」です。事業者、技能者のIDを別個に取得し、これを連携させて改めて申請しますが、レベル判定の証憑はキャリアアップシステムを使うという中途半端さで、全く同じ業務の二度手間が必要です。公表されているロードマップではどう見ても一体ですが、おそらく国土交通省が個別に入札したのでしょう。さらに、建設キャリアアップシステムは技能者(個人)と事業者(会社)をそれぞれ登録していましたが、レベル判定は事業者のみが利用可能。ということは、レベル判定を受けるためには事業者としても登録し、その上でデータ連携させなければなりません。不動産管理システムにユーザー、コンサルの両方面から導入に関わりその痛みを知っているつもりではありましたが、この業務設計はあまりにもお粗末すぎます。他人事の要件定義の犠牲になるのは、いつも末端ユーザー、これも立派な「下請業者いじめ」であることを、国土交通省の担当官は自覚しているのでしょうか?

技能者の賃金UPを国が後押し!?

料金値上げと事務負担を押し付けながら、技能者の賃金UPを国が後押し!?

 ところが、建設キャリアアップシステムは運営面でもっと大きな闇を抱えていました。2019年3月の時点で累積赤字55億円とのことで、2020年度末には100億円まで膨れ上がるとのこと。

100億の累積赤字、ある意味羨ましい

100億の累積赤字、ある意味羨ましい


 その一因としてコールセンターが当初15名の予定も57名まで増えたことが挙げられ、これを廃止しました。使いづらいシステムを作ってその対応に追われ運用費が爆発したのでしょう、今思うとオペレーターのメンタルも心配です。普通の企業なら即時撤退必至ですが、そこは国の肝いり、業界団体には追加拠出を、業者には料金倍増という強硬手段に出ました。その他にも郵送/窓口申請の廃止、レベル判定に必要な技能者資格情報などの登録オプション(別料金)化(今年4月から)など、制度の主旨を骨抜きにされています。運営母体は総務省公認の天下り団体の(一財)建設業振興基金、ここにもやはり「末端業者のことは承知しない」官尊民卑カルチャーが色濃く反映されている、と思うのは末端下請業者の僻みでしょうか。改めて今年3月開催の運営協議会資料を見ると原因「要件定義が甘かった」とのこと。「他人の業務を」「他人の費用負担で」「他人の責任の下で」システム開発を行うとこうなる、という典型例ですが、素直に認められるだけ改善の余地がある、ことに期待しましょう。
 最終的には、オプション有料化の前日までに「ホワイトカード(レベル1)」を含めた全員を登録申請し、「あとは研修助成金で元を取ろう。経審の点数を上げてやろう」と目論んでいました。レベル判定システムともしばしのお別れです。

 そして現在、来月の審査に向けて資料を整えるなかで久々にレベル判定システムにログインしようと試みたところ、6月15日でレベル判定システムが「ご臨終」を迎えていました。

在りし日のレベルアップシステム。14ヶ月で終了

在りし日のレベルアップシステムtop画面 供用14ヶ月間の短命


国土交通HPによると「ワンストップ化のため一時的にシステムを休止し、今後は業界団体がレベル判定を行う」とのこと。驚いて県庁の経審担当窓口に問い合わせると、審査ではカード(金、銀)提示では認められずで、新たに業界団体から結果通知書を発行してもらう必要があるそうです。
 これでは、2度手間解消どころか、更に書類提出が加わり3度手間になっています。しかもこれは当社だけではなく、電気工事業だけでなく、全建設業者が同じ目に遭うはず。その点を問いただしたところ、「国からの通達で、当初認定された登録基幹技能者を加点の対象外とするためらしい」とのことですが、そもそも登録基幹技能者と今回のレベル4は審査場の技術点は同じ3点で、区別する必要はありません。さらに県担当者曰くそもそもレベル判定システムの休止自体が初耳で「実は、建設キャリアアップについて申請も照会も全くないんですよ。」と寝耳に水状態のようでした。

 国土交通省にも確認しましたが、「レベル判定に関するデータベースは保管されているが、システム改修中で各業界団体にも中身を開示していない。レベル判定は今後すべて各業界団体が対応するので、そちらに申請して欲しい」とのこと。ここまで他人事として扱われると、こちらも後には引けません。常に3度手間になることを強く訴え、カードの提示で経審に対応できるように事務連絡を各都道府県に出してほしい旨を要望しましたが、どうにもならないようでした。実績データがあるなら通知書発行だけ簡易に実装しておけば良いはずですが、、 少なくとも、現に経審制度の一部として運用開始されている自覚があるようには到底思えませんでした。

 仕方がないので、レベル判定基準を作成した業界団体の電設工業協会に電話しました。事前にwebサイトを見ると、レベル判定使用者の証明は行わないとのこと。現状は各業界団体同士で善後策を協議中だそうで、やはりムチャぶり困惑している様子。責任者曰く、「レベル判定に関するデータが何もなく、手の打ちようがない。行く行くは建設キャリアアップシステムの方でレベル判定できるようになるようだが、その情報もない。といっても、こちらが行うこととされた以上対応せざるを得ないが、こちらも手が足りない。早急に外部委託を行うべく準備中」とのこと。ちなみに建設キャリアアップシステムでは前述の通りレベル判定について問合せは受け付けていませんが、9月1日に全面リニューアルを行っていました。

 という訳で、壮大なたらいまわしの末、一周回って県庁へ。顛末を説明し、受審における救済措置の検討を要請し、現在回答待ちです。

たらいまわし

今回のたらいまわし

結局、我が建設業でシステムを普及させることは難しいのかもしれません。
デジタル庁、何とかしてください!