2023年10月18日、千葉水球クラブ前リーダーの古宮一郎さん(享年71)がお亡くなりになりました。私にとっては、父以上に人生観に影響を受けた恩人です。哀悼を込めて、当時の思い出を振り返らせていただきます。前回からの続き

 学部3年生の後期は、一番「大学生らしい」生活を送っていました。アルバイトも家業を離れ、年末商戦の高級スーパー精肉売場での皿洗いや、高校受験を控える友人弟の家庭教師などを行いました。この家業現場免除はバブル崩壊の影響かと思い、今回改めて当時の月別売上(完成工事高)を確認しましたが、特に落ち込みは見られません。人手については、高校水泳部20期上の秋山先輩が営む喫茶「かたふり」から常連の千葉大生が電気工事のアルバイトに入るようになり、私もお役御免になったというのが真相のようです。

喫茶「かたふり」野球大会の表彰状

喫茶「かたふり」野球大会の表彰状


 そして4年に進級。第一希望の都市計画研究室に所属できましたが、指導教官となる中井検裕先生は9月着任予定。主なき研究室で進路も就職か進学か決めきれず、かといって勉強もせず、結局水球にかまけていました。大学構内の夜桜で水泳部の先輩と泥酔して意気投合し、2度退部したはずの部室で酔いつぶれ、その流れで大学の練習で笛を吹くようになりました。そう、私は水球審判資格を取得し、念願の公認審判員になりました!
 千葉県高校水球リーグにも、晴れて公式審判員としてデビューしました。必然的に母校が所属する1部リーグが割り当てられ、アシスタントコーチとして古宮さんとベンチに入ります。そこでは、昨年コーチとして苦楽を共にした八千代松陰高校は、今年度は対戦相手になります。

 我が後輩で、かつ昨年は対戦相手だった県立千葉高校は3年生が5人。人数も少なく、体格、力、技術が突出しているわけではありませんが、古宮さん指導の下で個性を伸ばし、勝負の勘所を知っています。古宮さんは私の高校2年次にコーチとして着任しましたが、当時は接戦を落とし続けました。あれから5年、相手との見た目の実力差をあっけなく覆す試合運びは、いつしか「古宮マジック」と呼ばれるようになっていました。
 一方、千葉県代表として春季関東大会に出場したばかりの八千代松陰高校は3年生14人。大会初日のミーティング後に挨拶に行き、激励するとともに、お互い翌日の健闘を誓いました。インターハイ予選を兼ねた夏季関東大会出場権を賭けて、県総体決勝リーグで再度対戦します。

 改めてベンチで古宮さんの采配を見て、コーチの本領を垣間見ました。とにかくよく観ています。相手のキーマンは、必ずしもゴールなどの目立つ役割を担っているとは限りません。また、高校レベルでは1チーム出場7名の実力がそろうことも、そうはありません。当時Jリーグ発足直後、戦術という言葉が流行していましたが、その意味を知った思いがしました。今、改めて中小企業診断士として思い返すと、SWOT分析を元に対策として練習し、さらに試合中に修正していくという作業だったように思います。

 そして総体は危なげなく勝利。昨年苦楽を共にした八千代松陰高校の3年生はこの試合で引退です。試合後の挨拶で涙ぐむ後輩たちに声をかけ、ねぎらいました。要求される基礎体力が極めて高い水球は、ストイックな競技生活を強いられます。これを大学でも続ける選択肢は、スポーツ推薦でもない限りほぼありません。しかしながら、このチームの得点源だった選手は、日本体育大学に進学し水球を続けてくれました。大学で水球を続けるもう一つのモチベーション、「高校での不完全燃焼」が、彼を日本一の無敗記録を持つチームに誘ったようです。

 さて、勝った母校は3週間後に関東大会、全国から選手を集める他都県の強豪が集います。母校は2年ぶりの出場ですが、前回の最強世代は春夏の2回とも1回戦でインターハイ、国体を3連覇した明大中野に当たり、敗退しました。彼らは卒業後も筑波大、東大、上智大で水球を続け、大会直前まで練習相手になってもらいました。

高校卒業4年後の同期が集結。後輩が勝つと、先輩も集まる

高校卒業4年後の同期が集結。後輩が勝つと、先輩も集まる


 というわけで、勝負の鍵は、まずはクジ運。幸い初戦の相手はシード校ではありませんでしたが、千葉県3位は実力的に下位クラス、全チームが格上です。まずは前日練習で相手をスカウティング。速い泳ぎや強いシュートなど力強いプレーが続きますが、その得意パターンの崩し方を探る、古宮さんの真価が発揮されます。
 そして本番、途中まで接戦に持ち込みましたが体力差はいかんともしがたく、最後は速攻を止められなくなり、突き放されました。3年生はこれで引退、大学受験という別の戦いが待っています。この切り替えには水球とは別の能力が必要ですが、多くの生徒はこの時点で予備校通いを人生スケジュールに組み込んでいます。

卒業旅行はヨーロッパ

 私自身は、9月に着任した中井先生の下で卒論本格開始!ではなく、鉄道会社への就職が内定したことを理由に、ユーレイルパスを購入して3週間ヨーロッパ鉄道旅に出ました。まずはローマで水泳世界選手権を5日間みっちり水球観戦。決勝戦は最終日の午後9時開始。前座扱いの競泳終了後に観客を完全入れ替えする、まさにメインイベントです。近所の酒場でのアップを終えた観客が、良い感じで集います。そして決勝戦は開催国イタリアが勝利。最高潮に盛り上がりました。高校時代、部活同期と「水球で3万人集めよう!」という話をしていましたが、ここで実現していました。

試合のない日に市内観光。トレビの泉

試合のない日に市内観光。トレビの泉にて


 隣席のイタリア人祖父孫と優勝の喜びを分かち合いながら、就職後も水球に関わっていたい。と思うようになりました。